Born under the Sign of Jazz 『ジャズの徴のもとに生まれて』 by Randi Hultin

ノルウエー女性が綴ったジャズの巨人たちの素顔を豊富な写真・エピソード・ジャムセッションの録音・会話等を交えて英語に翻訳され、CD付で出版された2冊の本をここに紹介します。

ジャズという音楽は、一度聴いただけですぐに理解できるものではない。テーマのメロディは親しみやすいのに、アドリブ・コーラスが始まったとたん、わけがわからなくなる、ということもよくある。それでも、妙に面白そうだとか、なんとなくかっこよさそうだとか、どこか引っかかるものがあって、何度か聴いているうちに、つい深みにはまってしまう、というのが、たいがいのジャズ・ファンのたどる道であるらしい。

今回取り上げる主役、ランディ・ハルティンさんも、最初はジャズがさっぱりわからなかったという。ノルウェーのあまり裕福ではない家庭に生まれたランディさんは、14、5歳のころから働きながら学校に通い、タイプや速記や簿記の勉強をしていた。本当は画家になりたかったのだが、生活のために秘書の仕事もできるようになりたい、と思ったからである。

16歳で社会人になったランディさんは、希望どおり秘書の仕事を始めたが、やがて軍関係のオフィスで働くようになる。第二次世界大戦中の話である。同じ建物に、陸軍野戦演劇隊(兵士の慰問を担当する部隊)の事務所もあり、そこでランディさんはさまざまな音楽関係者と知り合うようになる。その中に、トール・ハルティンというピアニストがいた。

トールの弾くベートーベンの「月光のソナタ」にうっとりしたランディさんは、トールと交際を始め、1947年に結婚する。この夫が、ベートーベンだけでなく、ジャズも弾くピアニストだったのだが、ランディさんはジャズのどこが面白いのかさっぱりわからなかった。理解するのに6年かかったそうである。トールとの結婚生活は長く続かなかった。

ところが、一度理解すると面白くてたまらなくなり、どっぷりジャズにひたったランディさんは、1956年からジャズ・ライターになり、ついにはノルウェー・ジャズ界の有名な Randi‘s Jazz とまで呼ばれるまでになった。本場、アメリカのジャズメンの信望も厚く、1988年にはランディさんを称えるジャズ・コンサートがニューヨークで開催されている。

そのランディさんの自伝が、Born under the Sign of Jazz である。自伝といっても、ジャズ・ミュージシャンとの交友録が大半を占めていて、ファンには興味津々のエピソードが満載されている。ノルウエーを訪れたジャズ演奏家がランディ邸を訪れるのは、1950年代からの恒例なのである。ちなみに、日本人では、渡辺貞夫や日野皓正がランディ邸の客になっている。


Born Under the Sign of Jazzに登場するミュージシャンを英語のまま紹介する。
Stan Getz, Phil Woods, Sonny Rollins, Bud Powell, Einar Iversen, Charlie Parker, Dizzy Gillespie, Ray Brown, Herb Ellis, Illinois Jacquet, Lars Gullin, Helen Merill, Johnny Griffin, Eubie Blake, Egil Kapstad, Bjørn Johansen, Jaki Byard, Sonny Clark, Count Basie, Duke Ellington, Zoot Sims, Art Taylor, Ernie Wilkins, Monica Zetterlund, Karin Krog, Oscar Peterson, Tom Harrell, Magni Wentzel, Lionel Hampton, Dave Brubeck, Roy Eldridge, Clark Terry, John Coltrane, Tommy Flanagan, Quincy Jones, Louis Armstrong, Elvin Jones, John Coltrane, Charles Mingus, Keith Jarrett, Herbie Hancock, Dexter Gordon, Thelonious Monk, Stuff Smith, Hampton Hawes, Zoot Sims, Kenny Dorham, Max Roach, Coleman Hawkins, Milt Jackson, Billy Higgins, Donald Byrd, Jack DeJohnette, Charles Lloyd, Herbie Hancock Kenny Drew, Art Farmer, Ben Webster, Bjørn Pedersen, Bodil Niska, Hilde Hefte, Atle Nymo, Frode Nymo...and many many more...

何故これほどまでに多くの jazz musician がアメリカや自国ノルウエーからランディ邸を訪れたのか謎のままであるが、この本を読んでおおよその推測が出来る。ランディの deep and warmth hospitality に感激し、滞在先のホテルをキャンセルし、ランディ邸に行けば彼女の心からの歓迎を受けるからであろう。彼女の名声は母国ノルウエーはもとより世界中に知れ渡ったのである。ランディ邸に3か月滞在したフィルウッズはお礼に美しいバラード「Randi」を作曲する。それから伝説のラグタイムジャズピアニスト Eubie Blake's が「Randi's Rag」を作曲している。ランディは74歳の時、3月18日オスロの病院で亡くなるが、funeral ceremony でこの2曲が演奏されている。さて、ユービー・ブレイクというピアニストはランディにとって特にお気に入りのピアニストである。私はこのピアニストについて予備知識がなくて調べてみると Memories of You の作曲者であり、幸いにもYou Tube で彼の演奏を聴く事が出来ます。
   http://www.youtube.com/watch?v=7TgIinkbBD4
スコット・ジョプリンはもとより、ラグタイムピアニストにはあまり関心がありませんが、この時代にこんな凄いジャズピアニストがいたとは驚きである。

ソニー・クラーク、ビル・エヴァンス、ハンプトン・ホーズ、ソニー・ロリンズ、スタン・ゲッツ、フィル・ウッズ、ケニー・ドーハム、ディジー・ガレスピーなど、たいていの大物ジャズメンがこの本に登場する。実は60年代後半からの約20年間、本国アメリカではロックが栄えて、ジャズメンの仕事の場がなくなり、娯楽としてだけでなく音楽としてもジャズを大事にするヨーロッパに大物が次々にランディ邸に渡っていった、という事情もあって、これだけの面子が揃ったのである。

ランディ邸を訪問した Stan Kenton Orchestra のメンバーである trombonist Carl Fontana の演奏する Voice of America, an identification which meant ”there was hope even for me!” に心を打たれるのである。ジャズに対する情熱が一旦目覚めると彼女の絵画に対する趣味を超越してジャズにとって代わるのである。

She became legendary in jazz circles for the warmth, kindness and depth of sheer humanity which went into her entirely genuine welcome.Her special favourite, pianist Eubie Blake, her dear friend Stan Getz, and including Phil Woods, Dizzy Gillespie, Roy Eldridge, Count Basie, Clark Terry, Bud Powell, Dave Brubeck, Charles Mingus, Sonny Rollins, Dexter Gordon, John Coltrane, Tommy Flanagan, Bill Evans, Chet Baker, Keith Jarrett, and many more.

上記の太字部分は彼女の人柄を表しています。多くのジャズメンが心が休まるとまでランディ邸にあるゲストブックにメモを残している。

Dave Brubeck がランディにささげた曲 Elegy を次のサイトで聴くことが出来る。フルートの音色が悲しみを誘い在りし日のランディを思い浮かべる事が出来ます。
    http://www.youtube.com/watch?v=KCPRLeFEHYo

まだランディについて紹介したい事がありますが後は是非 Born Under the Sign of Jazzを 原文で読んで下さい。豊富な写真を眺めているだけでジャズの歴史を垣間見ることが出来るでしょう。


(筆:高田)


  • 2011.01.22 Saturday
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